便秘症
便秘症について
便秘症とは、一般的には、3~4日以上排便がなく、おなかに不快感を感じ、日常生活に支障をきたす状態をいいます。排便は毎日のことであるため、そのような状態が続くと、体調のみならず、心理的なストレスを引き起こすこともあります。たかが便秘、されど便秘です。
便秘の程度は、軽症から重症まで様々ですが、日本人の10~20%の人が便秘であると考えられています。加齢とともに便秘の方は増え、若いうちは女性に多くみられますが、高齢者では男女差がなくなり、男性にも多くみられます。また、便秘を病気と思わず、市販薬を内服し、自分で治療を繰り返す「かくれ便秘」の方も多いと考えられています。そのような方もいれると、
便秘は自分の体質で、病気ではないと思っている方もいらっしゃると思いますが、便秘の原因は様々であり、大きな病気が隠れていることもあります。自己判断ではなく、きちんと病院での診察や必要な検査を受けた上で、生活習慣の改善や適切な治療を受けられることをお勧めします。
便秘の症状
便秘は多くの方が経験したことがある症状だと思います。便回数が少なく便が十分に出ない、排便をしても残っている感じがしてスッキリしない、トイレに座ってもなかなか便が出ずいきんでしまう、いつもおなかが張っている感じがするなど、このような症状を感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
便秘の症状としては、具体的に
- 排便が週に3回未満
- 硬い便、ウサギの便のようなコロコロした便(兎糞状便)
- 便の量が少ない
- おなかの張り
- 腹痛、下腹部の不快感
- 強くいきまないと便がでない、いきんでも便がでない
など、が挙げられます。
大腸がんは隠れていないか?
便秘症の方で、まず考えなくてはいけないのは、大腸がん・直腸がんなどの病気が隠れていないかどうかです。大腸がん検診は受けていらっしゃいますか?便潜血陽性と指摘されたり、排便時に出血をしたことはありませんか?慢性的に便秘症状がありませんか?このようなことがある方は、まず大腸内視鏡検査を受け、器質的な疾患がないかどうかをチェックすることをお勧めします。
もちろん内視鏡検査をすることに抵抗を感じる方や、ご高齢で内視鏡検査自体の負担・不安を感じている方もいらっしゃると思います。そのような方では、まず大腸がん検診で行うような便潜血検査や、血液検査による大腸がんの腫瘍マーカーの測定、腹部CTによる大腸がん(ある程度大きな病変でないとわかりづらいです)、などの検査を行いながら、並行して便秘の治療していくこともできますので、ご相談ください。ただし、やはり最終的には大腸がんに関しては、大腸内視鏡検査が最も確実に診断できる検査ですので、お一人お一人の状態をみて(症状・ご年齢・合併症・治療の効果など)、必要と考えられるときにはきちんと説明させていただきますので、ご安心ください。
また、持病や常用している薬の影響で便秘の症状が出ている可能性がある方もいます。
例えば、おなかの手術歴がある方、糖尿病、パーキンソン病、甲状腺機能低下症、薬に関しては精神疾患の薬や麻薬系の痛み止めの内服などです。便秘の原因としてそのようなことにお気づきでない方も多いので、これらのチェックも必要です。
便秘の主な原因
上で述べた大腸がんなどの器質的疾患が除外された上で、便秘となる原因として主なものは、次のような原因が考えられます。
ひとつは、便の硬さや形状の問題です。便が硬すぎたり、小さすぎると十分な排便が難しくなります。また、柔らかすぎると、便が残りやすくなり、出しきることが難しくなります。
そして、便をだす機能の問題です。加齢により、骨盤底筋群や腹筋の力が低下したり、直腸の感覚や収縮力が低下したりすることも、便秘の原因となります。
もうひとつは、腸の動きの問題です。腸の動きが弱くなると、便が大腸を通る時間が長くなり、通過しづらくなります。それが慢性化すると、大腸の感覚が鈍くなって、便が大腸の中にたまっていても、便意を感じにくくなり、便秘が強くなります。
このような状態になる原因として、具体的には
- 摂取する水分の量が少ない
- 大腸で過剰に水分が吸収され、便が硬くなる
- 大腸の動きが弱いため、便が運ばれるのに時間がかかる
- 便意を我慢することが多いため、直腸の排便の反射が弱くなっている
- 加齢に伴い、骨盤底筋、腹筋などの筋力が低下している
- 小食、ダイエットなどによる食事制限
- ストレスによる大腸の動きの低下
などが挙げられます。
便秘症の治療(1) ~生活習慣の改善~
便秘を改善するための第一歩は、まずは食生活や生活習慣を見直していくことです。具体的には以下のようなことを心がけてみましょう。
- <食生活の見直し>
- 適度な水分摂取を心がける
- 3食をしっかりとる(特に朝食を抜いている方は、朝食をしっかりとる)
- 食物繊維を多く含むような食事
- 脂肪分を取りすぎない
- <生活習慣の見直し>
- 睡眠を十分とり、規則正しい生活のリズムを心がける
- 適度な運動をする
- 便意を感じたら、我慢せずにトイレにいく
- 腹筋運動、骨盤底筋群の訓練
症状が軽い方であれば、生活習慣の見直しだけでも、便秘の症状が改善します。すぐに便秘薬よる治療を行わずに経過をみていくこともできますので、お気軽にご相談ください。
便秘症の治療(2) ~薬による治療~
生活習慣では症状の改善が見られない方や、すでに便秘の治療をされているにも関わらず症状がよくならない方は、薬による治療を行っていきましょう。
便秘症の治療薬には以下のようなものがあります。
便秘薬の種類 |
一般名 |
主な作用 |
浸透圧性下剤 塩類下剤 |
酸化マグネシウム |
腸内の水分分泌を促し、排便回数を増やす |
刺激性下剤 |
センノシド |
大腸の神経に作用し、腸の動きを活発にする |
膨張性下剤 |
カルメロースナトリウム |
腸内の水分を保ち、便の形状を整え、便の量を増やす |
*上皮機能変容薬 |
ルビプロストン |
腸内の水分分泌を促し、便を柔らかくする |
*胆汁酸トランスポーター阻害剤 |
エロビキシバット |
便の水分を増やし、大腸の運動を促進する |
漢方薬 |
患者さんの状態や、便秘の症状により、適した漢方薬を処方 |
|
坐剤 |
炭酸水素ナトリウム・無水リン酸二水素ナトリウム |
排便を誘発させる刺激となる |
浣腸 |
グリセリン |
排便を誘発させる刺激となる |
*赤色に囲まれた薬は2012年以降に認可された便秘症の新薬
以上のように、便秘、と一言で言っても原因は様々です。
便秘症の治療薬は長年使用されているもののほかに、上の表の*赤色に囲まれた薬は、近年認可された新しい便秘症に対する治療薬です。これまでの治療で、なかなか症状が改善されなかった方に使うことのできるお薬ですので、お困りの方はお気軽にご相談ください。